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[シリーズ・オープニング・メッセージ]
癒し、安らぎ、集い、楽しみ、創造、そして休息・・・・各界で活躍する人々は、住まいに何を求め、自分らしさを表現していらっしゃるのでしょうか。ライフスタイルを実現する場として、住まいをどのように創っておられるのでしょうか。建築やデザインの専門家として、一人の住み手として、大切なこだわりをお聞きしました。


堀木エリ子さんは、千年を超える伝統の和紙の世界に、時代の新しい息吹を吹き込む今、注目のクリエーターです。

伝統的な和紙の本質を見極めたいと考え、和紙が和紙であるための素材や製法には徹底してこだわっています。和紙の職人さんの技を深く尊敬し、それでいて現代に活きる新しい和紙のあり方を、提案したいと思っています。
堀木さんの作品は、ミラノやニューヨーク、そして東京などモダンリビングの最先端をゆく都市で高い評価を受けています。

これまで日本の住まいで使われてきた障子や襖(ふすま)などの和紙に代わり、リビング・ダイニングや、モダンなプライベートルームにも生かせる、新しい和紙の可能性と魅力を、伺いました。

 
[プロフィール]
高校卒業後、4年間の銀行員生活を経て、和紙商品開発会社へ。1987年にSHIMUS設立。商業空間から公共施設、舞台美術まで様々な空間で和紙の新しい表現に取り組む。
2000年、堀木エリ子&アソシエイツ設立。2001年、日本建築美術工芸協会賞、2002年、インテリアプランニング国土大臣賞、2003年、ウーマン・オブ・ザ・イヤー賞2003、日本現代藝術奨励賞などを受賞。


 

――堀木さんにとって、和紙の魅力とはなんでしょう?

私の和紙へ興味は、和紙そのものの美しさよりも和紙から放たれる空気感や和紙の背後にある気配をどう創り出すかにあると思います。
そう考えると、私の手がける和紙は、最初から建築空間に置かれた和紙のあり方を意識したものかもしれませんね。
公共建築のロビーやエントランス、レストランなど、建築の空間の中で、和紙そのものが存在を主張し過ぎることのないように、それでいて周囲の雰囲気に埋没してしまわないように、より確かな和紙の存在感が欲しいといつも考えています。
和紙の持つ、自然でより確かな存在感を引き出すために、私は、色や柄を漉き込んだり、和紙を何層にも重ねて、光の効果を考えます。
和紙が自然の光や照明の光を通すことで、時の移ろいやその時々の雰囲気の変化を感じられるようになればいいと思っています。

――仕事の様子を教えてください。

私の仕事は、多くの場合、建築家やインテリアデザイナーなどからの依頼がスタートになります。

ですから、依頼していただいた方々の創作の意図を理解し、それを決められた場所の中でどのように表現するかが私の役割です。
制作時間の多くは、デザインの作業と同時に、その建築が求める用途や機能への対応に追われます。
レストランやホテル、市民会館や博物館、または劇場やミュージアムなど、和紙の求められる用途や機能は、その場によってそれぞれに違うからです。

これまでにも立体的に和紙を漉く手法や、幅16mもの大きな和紙を漉く技術を開発してきました。
このほか、破れない、汚れない、燃えない、色が褪せないなど、現代の建築に使われるための性能を満たすため、様々な加工技術を開発しながら、和紙という素材を進歩させてきました。
一般の方から見れば、和紙は破れるなどの破損や、火に弱い、直ぐに変色するなどのイメージがありましたが、新しい加工技術は、これまでの和紙のイメージを変えるのに、役立ったのではないかと考えています。

■堀木さんの和紙は、京都と越前和紙で有名な福井県武生の工房で漉かれる。
堀木さんの主宰する「堀木エリ子&アソシエイツ」のスタッフと和紙の職人さんたちとの共同作業は、手仕事の厳しさと美しさを見る者に教えてくれる。

 

 
――堀木さんには、デザイナー、ディレクター、プロデューサーと、様々な肩書きが付いています。

私は、和紙の造形作家と呼ばれることが多いのですが、デザイナーであると同時に、職人という面もあります。
なにしろ、他にだれか教えてくれるわけではなく、常に初めての仕事に取り組んでいるので、現場で実際に手を動かしますから、それなりの肩書きが付いてしまうことになります。
一番最初に和紙の展覧会を東京で企画した時はプロデューサーでしたでしょうし、クリエーターの方々の要請に応じて新しい技術で和紙を創った時は、技術開発者だったかもしれません。和紙の用途を開発して、ビジネスに注目すれば、経営者としての側面がクローズアップされるかもしれません。
とにかく、まだ誰もやらない仕事に挑戦するということは、役割や肩書きの域にとらわれないことが大切です。

和紙造形作家の堀木さんは、和紙職人、アーティスト、デザイナー、ディレクター、プロデューサー、そして工房の経営者として何役もの役割をこなす。
 
――和紙を現代に活かすには、工夫や創造が必要なのですね。

私は、和紙を現代の生活に活かすには、昔の和紙のままではなく、時代に対応した性能を新しく加えていくべきだと考えています。
新しい表現には新しい技術が必要です。
未来の伝統は、現代の新しい革新から生まれてきます。
その意味でもこれまでなかった新しい素材と組み合わせたり、建築家やインテリアデザイナーなど、他の分野で活躍する専門家の方々とのコラボレーションによって用途を広げていくことが、大切なことだと思っています。


――現代の住まいに、和紙はどのように役立つのでしょうか?

和紙は、もともと障子や襖として使われるなど、日本の住まいにはなくてはならないものでした。和紙と住まいとは切っても切れない縁なのです。
今お話したように、私の制作する和紙の多くも建築空間で使われています。
和紙の魅力を一言で簡単に表現するのは難しいのですが、私が惹かれるのは、障子が醸し出すような空気感や気配です。
部屋の中にいて、障子を通して伝わってくる外の日差しの移ろいや気配、季節感などがとても好きです。
住まいの雰囲気は固定したものではなく、その時の使い方や気分の変化を受けて、それにふさわしいものに変わっていくのがいいと考えているのです。


同じリビングでも、お客様を迎えたり、家族の団らんや深夜に独りで読書や音楽を聴いたりする時とでは、部屋の雰囲気がもっと変わっていれば素敵ですよね。
空気感を変えることで、空間や環境に新しい変化をもたらすことができます。そうしたら、そこにいる人も、もっとリラックスできたり、楽しくなったり・・・・、空間を十分に味わうことができると思うのです。
人が暮らす住まいですから、その人の気持ちを映し出せる、その人の浸りたい気分になれるような空気感を、和紙と光の演出でできたらと思います。
仕事が終わって落ち着いた時、食事の時、掃除の時、それぞれの空間や自分の気持ちに合った空気感が部屋に漂うことが大切です。
こうした空気感をつくり出す家具や建具の素材として、私は和紙がもっと使われてもいいように考えているのです。障子や襖で和紙の役割が終わってしまったように考える人もいますが、和紙には、もっともっと大きな可能性があるように考えています。


――和紙で住まいを変える。具体的にどんな方法が考えられますか?

例えば、パーティションやスライディングドア、スクリーンなど、現代の住まいに使われている家具や建具に和紙を使って、新しい空気感を持ち込みたい。
きっと魅力的な住まいの空間ができあがると思います。

日本の住まいは、もともと動かすことのできる間仕りや障子などで、空間をその時々の暮らしに応じて自由に仕切ってきました。
戦後はヨーロッパやアメリカ型の空間をきちんと仕切る考え方が広まり、家の間取りもずいぶん固定的になったような気がしますが、もともと住まいを住まい方に合わせて柔軟に使えるのが日本の住まいのよさだといえるのです。

今、皆さんが使っていらっしゃる住まいに、和紙が伝える空気感を取り入れ、自然の採光や照明で移ろいや雰囲気の変化を楽しめたら、どんなに素敵かと思うのです。
障子や襖など、もともと和紙が活躍してきた住まいの空間の中で、和紙と照明器具を上手に使うことによって、もっと暮らしを豊かに演出できる可能性が和紙にはあります。
パーティションやスライディングドア、スクリーンなど、今使われている家具や建具に、新しい和紙の可能性を盛り込むことによって、住まいのもつ可能性も広がるように思えるのです。

■東京・汐留の松下電工NAISミュージアムで開かれていた「和紙と光のアート展 堀木エリ子の世界」(2003年12月〜翌3月)に出品された作品。
それぞれの画像をクリックすると別ウィンドウで大きな画像が表示されます。
SUN
MOON
一枚漉き幅15mの大型和紙で、「月」と 「日」をテーマにした連作。
 
 
住まい空間への提案として出品された和紙のパーティション
 
 
骨組を使わずに立体的に漉き上げたライトオブジェ

――最後に、堀木さんご自身はどんな住まいの空気感がお好きですか?

仕事を終えた深夜、和紙のパーティションの静かな空気感に包まれて、ワインを飲んでいると、暖かな開放感があります。ここちよさの余り、ついつい鉛筆をもって次のデザインを考えてしまいます。



■和紙について
越前の和紙は、楮(こうぞ)などの主に最高級の国産原料が使われ、○原料を煮る(煮熟)○白皮のアルカリ成分を抜く(アク抜き)○材料となる白皮を清水に晒し、1本1本丹念に指先で塵を取り除く(塵取り)○白皮の繊維を解きほぐし適当な長さに切るためにたたき棒でたたく(叩解)○解きほぐしてできた紙料に水とネリと呼ばれる粘材を混ぜ合わせて紙料液を作り漉く(紙漉き)○湿っている紙を紙床からはがして干板などで乾かす(乾燥)・・・・などの数十の工程をたどり、熟練の和紙職人の手によって創られる。

     
(1) 楮(こうぞ)、三椏(みつまた)などの和紙の原料   (2) 原料を煮る煮熟   (3) 塵取り
             
      それぞれの画像をクリックすると別ウィンドウで大きな画像が表示されます。
(4) 紙液料液を入れる   (5) 紙漉き   (6) 干板    
 
※当コンテンツでは、略称を用いています。敬称は略させていただきます。


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