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sumu2 Guest Room [14] 書道家 武田双雲さん 目指すのは、訪れた人の“心が開く家”

これまでの書道の概念を破り、「書」を通して多くのアーティストとのコラボレーションなどで人気の書道家・武田双雲さんが、昨年夏、新居を構えた。武田さんはご自宅で書道教室を開かれているため、生徒さんや仕事の打合せ、取材など、とにかく人の出入りが多いという。そんな武田家の新居のテーマは“心が開く家”。この家を訪れた人が素直になれ、リラックスできる空間をつくりたかったという。武田さんが望む“心が開く家”とは? また、「人生は愉しく」をモットーとされる武田さんの暮らしを愉しむ秘訣についても伺いました。
[プロフィール]
書道家。3歳から母でもある書家・武田双葉氏に師事。東京理科大学卒業後、会社員を経て書道家に。書道教室で指導する傍ら、斬新な個展や独自の創作活動で注目を集め、B’z、野村萬斎氏など、さまざまなジャンルのアーティストとのコラボレーションや映画・ドラマの題字揮亳(きごう)など、創作活動を中心に多岐にわたり活躍中。主な著書に『たのしか』(ダイヤモンド社)、『「書」を書く愉しみ』(光文社新書)、『書愉道』(池田書店)など。2003年上海美術館より、「龍華翠褒賞」を授与。イタリアフィレンツェ「コスタンツァ・メディチ家芸術褒賞」受賞。

僕だけの居場所、 家の中の秘密基地で遊んだ少年時代

――子どもの頃、育った家の記憶はありますか?

両親が自営業でしたから、1階が事務所、2、3階が自宅、そして屋上があるという戸建ての家に住んでいました。思い出深いのは、3階から屋上に出るドアの手前にあった物置スペースです。畳1.5畳分くらいのとても狭いスペースだったのですが、時間があると懐中電灯を片手にそこに行き、一人で漫画を読んだり、弟とかくれんぼをしたりして遊んでいました。
薄暗く、蜘蛛の巣が張っていたりしてちょっと怖い感じもあり、ドアの先は外に繋がっているという状況が、冒険心をくすぐるというか、ワクワクするんです。自分だけの秘密基地みたいで大好きな場所でした

――引越しをされた経験は?

中学生の頃、築60年くらいの日本家屋に引越しをしました。この家は、思春期を過ごしたので自分の部屋にこもったり、いろいろと暗黒時代を過ごした家です。
母親の部屋が畳の部屋だったので、母が留守中にその部屋に入るのが好きでした。僕の部屋は畳ではなかったので、母が出かけるとこっそり部屋に入り、一人で畳の上に居るのが落ち着くというか。当時から、畳の雰囲気とか、井草の香りが好きでした。

新居の玄関を入ると目の前にある襖に書かれたご自身の書「感謝・感動・感激」の前で筆を持つ武田さん。


会社員から書道家への転身 その原動力になったのが「名刺作り」

――書道家になるべく、会社を退職されたキッカケは?

会社の先輩が独立をすることになり、名刺の名前を書いて欲しいと頼まれまして、軽い気持ちで引き受けたところ「これはビジネスにできるのでは」とすすめられたことがキッカケです。こういう仕事が成り立つなら、インターネットを使って仕事を広げられるのではないかと考えるようになりました。
また、同じ時期に書道家の母が自分の活動記念のパンフレットを作ったのですが、それを見た時、素直に「カッコイイ」と思ったことも書道家になるキッカケになったと思います。書道ってカッコイイな、と感動して、自分もこういった活動をしたいという思いがこみ上げてきたのです。この2つの出来事が重なり、自分も書道を仕事として生きていこうと決めました。
この瞬間まで、ただ漠然と自分はこのままサラリーマンをやっていくものだと思っていましたから、今思うと独立するなんて自分自身でもびっくりですが、字を書くことは趣味というか、幼少期から常に生活と共にありましたから、やってみようと。

箱根彫刻の森美術館でのセレモニー用に彫刻家とコラボ制作をしたオブジェ。

大小さまざまな筆は武田さんにとって「仕事道具であり、最高の遊び道具」だとか。


ご縁がもたらす、 「行き当たり“バッチリ”」の人生

――書道家になることを決められ、住まいに湘南を選ばれたのはなぜですか?

一目惚れです。たまたま紹介していただいた家がとても気に入り、直感的に「ここに住みたい」と思ってしまったのです。
でも、その直感は“ビビビッ”という感覚ではなく、「ここに住むんだろうな、ここなら自分に合うな」という自然な感じでした。こういった感覚は恋人選びと一緒かもしれませんね。まさに「ご縁」があったのでしょう。
考えてみれば、仕事もそうですし、僕の人生はすべて「ご縁」で成り立っている気がします。この生き方を自分では「行き当たりバッチリ」と呼んでいます。
そこでは、庭を見ながら縁側に座るのが好きでした。日向ぼっこや、鳥の鳴き声を聞きながら、日のゆらぎを見ているのが何とも風情があって心地いい空間でした。

書道教室兼ご自身の仕事場は、白を基調にしたシンプルな空間。

――家でゆっくりされる時間はあるのですか?

東京に行くのはテレビ出演がある時くらいです。外に出るのが好きなほうでもないですし、書道教室も自宅ですからほとんど家にいますよ。わが家には、もうすぐ2歳になる子どもがいるのですが、これほど子どもと一緒に居る時間の多い父親はいないのではないかと思うくらいです。
自称、「世界一明るい引きこもり」と言っているくらいですから。もう少し大きくなったら子どもに「ウザイ」とか言われてしまうかもしれませんね。

中国を訪れた時にはまとめ買いをするというお気に入りの硯コレクション。


誰もが素直になれ、リラックスできる空間 目指すのは訪れた人の“心が開く家”

――より海岸に近い湘南に建てられた今の新居は、いつ完成されたのですか?

昨年7月に完成しました。
家主の都合でそれまで住んでいた家を取り壊すことになりまして、住む場所がなくなってしまったからです。
取り壊しが決まったという話を聞くまで、家を建てる予定など全くなかったもので、自分でも驚きです。まさか急に家を建てることになるとは…。

書道教室でもあり、ご自身の仕事場でもあるこの部屋が「僕の居場所」と語る武田さん。

――突然の新居建設ですか?

でも、せっかく建てるわけですから、1年くらいかけて建築家と話し合いながらつくりました。
仕事柄、生徒さんや取材など、とにかく人の出入りが多いので、この家を訪れた人皆がリラックスできる場所にしたいと思ったのです。建築家には、「ここに来たら素直になれる空間をつくってください」というお願いをしました。あとは、内装は白っぽい方がいいと言うくらいですかね。
シンプルで気取らない伸びやかな空間のある新居になりました。


――新居の中でお気に入りのスペースはありますか?

この家の中で、僕が落ち着けるのは、教室の自分の机の前か、茶室にあるパソコンの前です。
子どもの頃から変わらない趣味で、一人で黙々と落書きをするように字を書いているのが好きなのです。一人で字を書く時には、教室のスペースを狭く感じさせるため、自分の机にライトを当てます。そうすると集中できますし、落ち着きます。

構えずに、落書きをする気持ちで書に向かって欲しいという。

――ONとOFFの切り替えも兼ねているのですか?

いえ、それはないです。僕はONとOFFという切り替えがなく、いつでも自然体なんです。変に力を入れず、自然に書けば凄いものが出てくると自分で信じているので、「書こう」とも思わない感じ。自然な流れの中で「書こう」ではなく「書いている」という感覚です。
筆を持ったら自然と筆先から文字が書かれている感覚ですね。今後、何十年も続けていく仕事ですから、義務で書きたくはないですから。
僕は仕事も含めて日常生活から「“Must”、〜しなければならない」という概念をできる限り排除しているのです。何事も自然体で、「自然体でやろう」とも考えない、何も考えずに愉しむことが結果的に自然体になっているという感じです。

発想は自由に、オブジェとして書かれた書。


出会う現象を愉しみ、 「愉しく生きる」ことが基本

――暮らしの中で一番大切にされているモットーとは?

「愉しく生きる」が基本です。
愉しいことを探しに行くのではなく、出会うことすべてを愉しんでしまうことです。僕は、無理に何かをこじ開けたり、探しに行ったりせず、何も欲しがらない。
今のところ、特に欲しいものもないし、不思議なことに、欲しがらないと自然といろいろなものが入ってくるという鉄則があるような気がします。人も、物も、情報も、じっとしていると自然に入ってくる。そしてそれを愉しむ。それで満足です。これも「ご縁」ですね。
毎日愉しく、そして感謝をして生きることを大切にしています。

書をきっかけに多くの人と出会い、パワーをもらっているという武田さん。

――書く時に場所やその時の気持ちに影響はありますか?

よい意味で影響されます。手で書けと言われれば、手で書くこともありますし、その場にある道具で書くことも。別にこの道具でなくてはいけないとか、この紙でなければいけない、こういう字にならなければいけないといったことは何もなく、破れた紙しかなければそこに書けばいい、その場の状況の中で、自分が一番愉しいと思えるように書く。最もよいと思える気持ちで書くことが大切だと思います。

書く文字や、その時のフィーリングに合わせて使う筆をチョイス。

――教室での生徒さんとの愉しみ方は?

笑い声の耐えない教室ですよ。僕が一番愉しんでいますけど。8割は普通に練習。2割は会話だったり、書を通して皆が楽しめるゲーム的なことを考えています。
中には、どんよりした気分で来られる方もいらっしゃいますが、皆、終わるころには、「陽の気」をたくさん吸収して元気になって帰って行きます。ここに来て書を愉しみ、皆でケラケラ笑いながら過ごしているうちに教室に入ってきた時と顔つきが違ってくる人も多いです。
元気とは「元の気」と書きますよね。元気になるということは、元に戻るということ。元に戻れば気の流れは自然とよくなる。ここは、何も考えない幼い子どものような空間だと思うのです。
だから皆が素直になれる場所。元気をもらって帰るという方もいますが、そうではなく、元の気に戻って帰るということだと思うのです。生徒さんから僕も多くのよい気をもらっていますし。お互いに愉しい時間を過ごしています。

この家で心を開き、元気になって帰って欲しいという。

――教室以外にこだわられた場所はありますか?

基本的に、シンプルな家にしたいという想いがあり、部屋には特に凝ったデザインはいらないと考えました。ただ、畳に布団を敷いて寝たいということにはこだわりました。ベッドではなく、畳の上に親子3人で川の字になって寝たかったのです。
その他では、縁側を作ったことですね。縁側に座って自然の風を感じたり、日の光を眺めたりする時間が大好きですから。


 家とは、自分が根を張り栄養を与えてくれる   「土」のようなもの

――武田さんにとって家とは?

家は自分の根を張り、そこから栄養をもらう土のようなもの。よい土からよい植物ができるように、よい家があれば人生もよいものになると信じています。年月が経つことで、家が古くなるという言い方もありますが、僕は古くなることが悪くなることとは思わないのです。
逆に、この家に通う多くの人がよい空気作りをしてくれると思うので、いろいろな栄養が入り、月日と共によりよい土(家)になる。熟成されるという感じでしょうか。この家は、それを願ってつくった家です。

「家は自分が素でいられる場所。そして、そこに根を張り、栄養を吸収する土のようなもの」と語る武田さん。

肩肘張らない書の楽しみ方が紹介されている著書『書愉道』(池田書店)。以前の湘南の住まいで撮影されたもの。

常に暮らしの中には遊び心をもっていたいという思いが込められた「遊」の書。



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